大阪市北区
前 田 昌 則 区長
(以下敬称略)
中西金属工業
株式会社
中 西 竜 雄 社長
(以下敬称略)
NKCグループは「社会課題に向き合う企業風土の構築」を目指し、2022年の3月に大阪府と包括連携協定(※1)を締結、続く9月には大阪市北区と連携協定(※2)を締結しました。企業と行政が一体となって社会課題を解決していくための連携の体制が整った今、前田区長と中西社長にそれぞれの立場から、行政と企業のコラボから生まれる新たな可能性、そして思い描く地域社会の「未来のカタチ」を伺います。
※1 大阪府包括連携協定 の締結について|
※2 大阪市北区連携協定
の締結について
―早速ですが、まずは「福祉」に関すること。2022年11月に新たに立ち上げた「NKCなかにわ」(※3)を通じた、こどもの貧困・孤食対策のための“こども食堂”、それから障害者への就労支援のための“福祉カフェ”の取組について、中西社長の想い、そしてそれを支援していく立場の前田区長のお話をお聞かせいただければと思います。
【中西】実は数年前、北区と隣接する都島区で「NKCなかにわ」の前身となるこども食堂を立ち上げたんです。地域の掲示板や町内会を通じてお知らせしたら、あっという間に定員いっぱいになりました。最近は、コロナ禍もあってひとり親家庭や経済的に困窮する家庭が増えて、こどもの貧困や孤食が顕著になっているのもあり、地域のニーズは高いと分かりました。
―そしてそれを北区に移そうということになった・・・。
【中西】これは大阪府、それから北区との連携によって、本社所在地を起点とした活動にもっと力を入れたいと思うようになりました。都島区の物件では水災害のリスクが高かったこともあり、日本一長いことで有名な天神橋筋商店街への移転を決めました(※4)。北区というのは商売の街で、なかなかそういう物件自体が簡単に見つからなくて大変でしたけどね。やっぱり地域の中でも中心と言われる場所でいろいろ行動、起こそうかということで。
―より足元で社会課題へアプローチするために「NKCなかにわ」を移転されたと。これは北区長から見てどういうふうにお感じになりますか。
【前田】昨日、行ってきたんですよ、「NKCなかにわ」の福祉カフェ。ちょうどその時、向かいの八百屋さんが野菜を寄付してくれたんですよね。自然に地域とつながって広がってるような。周りの人が支えてくれて、とてもいい感じだなと思いましたね。
【中西】前田区長にはいろいろとお世話になってまして。「NKCなかにわ」の完成時にはオープニングイベントにお越しいただいたり、福祉カフェも、11月1日の初日に来ていただいたり。区長のFacebookにも載せていただいて本当にありがとうございます。
―もともと社長のこども食堂に対する熱意がすごいとお聞きしています。どうですか、社長はやはり、夢がすごいかなったという感じでしょうか。
【中西】そうです。こうして始めたからにはしっかりと継続させる使命を感じていますね。
【前田】僕この企画を聞いたときに面白いなと思ったのは、BtoB企業である中西金属工業の中であそこはBtoCなんですよ。お客様の笑顔がここにあるということを社員が体験できるのは、社員の働きがい、生きがいという観点において大きな収穫なんじゃないかなと。それと、学校や行政にできない役割を企業が担ってくれることも大きい。未来あるこどもたちの教育という重要なテーマについて、学校の外から応援いただけるのは非常にありがたい。教師にはできない役割が「NKCなかにわ」にはあると思ってますよ。
―教師にはできない仕事。それを「NKCなかにわ」に期待されているんですね。
【前田】僕は今、地域に「NKCなかにわ」を根付かせたいという思いがあって。企業のサステナビリティを社会全体でどう取り組めるかっていう一石を投げていただいたんでね。小さな点を大きな点に、そして商店街から長い線にしていければなと。福祉で社会貢献したいという企業がいる限り、やっぱり地域として応援してほしいんで。企業と地域をつないでいく。そして「私、あそこでお世話になったんや」という子が、成人式の時に出てきたら、成功なんだと思います。
【中西】区長がこうやって一生懸命語ってくれて、本当に嬉しいんですよ。今、「NKCなかにわ」に携わるみんながお祭りみたいに楽しんでるんですよ。ああいうのって僕、すごくいいって思いますね。
【前田】まさに祭りですよ。大変なんだけどもみんな楽しんでるんですよ。北区で毎年開催している天神祭だって本当に大変なんだけど、みんな楽しいから毎年集まってくるわけですよ。「NKCなかにわ」もそうなったら大成功ですよね。
―続いて「こども教育」に関すること。具体的には中学校への職業出前授業。これは具体的にはこれからでしょうか?
【中西】大阪府そして北区からも職業出前授業などを通して企業が教える場を提供してほしいっていう要望があって。当社の特徴的な部分を活かして取り組んでます。以前から環境負荷低減への取組はすごく頑張っていて、社用車のほとんどがいわゆるエコカーなんですよ。電気のほかに水素も。これを学校に持っていって、電気自動車が災害のときどう活用できるか体験してもらったら面白いなと考えています。行政や地域の要請には、できるだけ積極的に応える方針ですよ。
―なるほど。中西金属工業にそういった要請を行ったのには、どういった狙いがあるんでしょうか。
【前田】この、キャリア教育っていうんですけどね。企業が学校を訪問して仕事について教えていただく職業出前授業。それとこどもたちが外に出て学ぶ職場体験。この2種類がある。僕が民間企業から区長になった当時は、学校の周囲、半径数百メーターの狭い社会の中でキャリア教育が展開されていたんです。せっかくの機会がもったいないと思って、そこらじゅうに直接お願いをして、いろんな企業に来てもらって。その中の一つが中西金属工業さんだった。中学校の先生には、中西金属工業さんに相談したら楽しいおもちゃ箱あるよって僕が勧めたんです(笑)。
【中西】先日も地域の中学校の職場体験を「NKCなかにわ」で受け入れたんですよ。(※5)製造業といえば工場見学のイメージですけど、当社の特徴を活かしたいのと、こどもたちに色んな人と接点を持ってほしくて、「NKCなかにわ」の福祉カフェで1日体験してもらったんです。企業が地域社会とどんな風に連携し活動しているか、実体験してもらうことができました。
―地域の「安全安心」についてはどうでしょうか。
【前田】僕が北区長として中西金属さんと接点を持ったのは、「こども110番運動」がきっかけだったんですよ。この活動は主に住宅や店舗に目印になるシールが貼ってあって、こどもが危険を感じた時にそこへ飛び込めるというもの。でも北区って住宅の9割はマンションでオートロック。そしてこどもに対する犯罪が起きてるのは路上や公園周りが多いんですよ。だから自転車や歩行者にこそ協力していただきたいということで、こども110番マーク入りの自転車用ひったくり防止カバーと歩行者用缶バッジ。この製作を中西金属さんから障害者就労支援施設に発注してもらい寄付していただいたんです。今この活動ってもう2万2000人が参加してて、街を歩くとこども110番のマークがちらほら見えるようになりました。このおかげでこどもの事件が減ってきていると警察も認知してます。
―「こども110番運動」への参画の背景には、社長のどんな思いがあるんでしょうか。
【中西】私たちは50年前から中西奨学会(※6)っていう奨学金財団をやってて。僕は今この会社の4代目なんですけど、先々代の時に私財を投じて立ち上げたんです。昔からずっと、未来あるこどもたちのために何かをやってあげたいという想いがある。やっぱり行政や学校が何でもかんでもできるわけではないので、企業も地域社会と共存していくことが大切。企業だからこそできる取組に力を入れたいと思っています。
※6 中西奨学会について
―なぜ、中西金属工業は社会貢献活動にこんなにも注力するのでしょうか。
【中西】これ、明確にあるんですよ。これだけ産業が進んでくると、常に新しいものに目を向けていく必要がある。そのときに何が重要かというと、やっぱり発想力。ほとんどの人は、家庭と会社の行き来だけなんですよね。でも発想力を育てるには視野を広げる経験が必要で、そこで簡単にできるのがボランティア。活動を通して社会に目を向けることができるし、社会に対する視野が広がればイノベーションも起こしやすくなる。特にこれからは人生100年時代。60歳や70歳まで働いたとして、100歳まで生きたら残りの30年間どう生きるのかと。そのときのために今からボランティアや習い事など仕事以外の活動を見つけて、第3の人生のことを考えていないと、健康的に過ごせないとも思っています。
―中西社長ご自身も、何か第3の人生に向けて始められているんですか。
【中西】僕が25歳ぐらいのときに、当時の上司が陶芸を始めたんですけど、僕、「今からやります?」って笑ってたんです(笑)。でもその人、20年たったら先生になって個展してたんですよ。だから僕もこども時代に習っていた書道を再開して、今ちょうど20年が経ちましたね。でも経験年数に対して大きな展示会での受賞歴がないんで、書道の先生からは早く賞を取らないと破門と言われてます(笑)。僕の考えでは、運動的な活動と創造的な活動、両方をやっていれば、第3の人生を健康に過ごせるんじゃないかなと。イノベーションの話に戻りますが、やっぱりこれからアジア諸国や新興国が追い上げてくるので、日本の企業として先行して新しいものを生み出さないと企業価値の向上は難しい。こういった理由から、外のボランティアに出かけて行くことで視野を広げる事がとても重要だと思っています。
―行政としてそれをバックアップすることって、どういうことが考えられますでしょうか。
【前田】僕も、もともとは企業で30年勤めてから公務員になっているので分かるんですけど、行政側から企業はなかなか見えづらいと思います。今までの行政と企業の関係性は互いに線引きをしてきたところがあって、視界不良の状態なのかな。だから僕、やっぱり産官学での連携が重要だと思ってるんです。人口減少に伴って、行政の活動にも徐々に限界が来るはず。だからわれわれはもっと企業を支援することが大切だし、そのほうが面白いんじゃないかなと思ってて。お互いの活動をより良くするために必要なことですよね。
【中西】われわれが一企業として取り組む活動に対し、行政が地域とつないでくれたり、地域全体がつながれるようなダイナミックな企画を実施していただくことを期待しています。
―あとは「区政のPR」のお話でしょうか。民間企業である中西金属ですが、区政のPRに対しても意欲的である、その理由をお聞かせください。
【中西】いろんな施策によって、北区は世界に注目されるような街になっていくべきだと思うんですよね。やっぱり大阪市の中でも北区は中心的な立ち位置なので。
【前田】この狭い面積の中に1万5000社も企業があって、更に文化施設も多い。フェスティバルホールや天満天神繁昌亭など。そんな街は珍しい。
―確かにそうですね。多種多様な企業がひしめき合っていて、なおかつ歴史もある、文化もある。
【中西】当社の社屋の屋上にLEDサイネージを設置したんです。運よく大阪環状線の車内から見えるんですよ。だから大阪府や北区の府政・区政に関するお知らせの掲示で協力させてもらってます。
【前田】中西金属工業さんを訪問したときにLEDサイネージの話を聞いてラッキーと思いましてね(笑)。ちょうどそのとき、北区としてギネス世界記録に挑戦してたんですよ。大阪環状線から見える!すぐお願いしよう!ってなって告知を載せてもらいました。行政もアピールする手段っていうのを、いろいろ持っておかないと、地域の皆さんにメッセージが伝わらない。いろんなところにいろんな情報が現れるようにすることがやっぱり大事。
【中西】行政は地域に対してPRしたいことがあっても、なかなかそういう場がなくて、だから当社として協力する必要性は高いと感じていますね。
―確かに行政からのメッセージっていうのは、区民や市民に発信しにくいですよね。発信してもなかなか通じない。
【前田】スマホとか、情報を伝える媒体が増えすぎて、隅々まで情報を伝えるって難しくなってきてます。だから使えるもの全てをフル活用する上で中西金属工業さんのLEDサイネージは重宝させていただいてます。
―行政と協力して数々のユニークな活動をされている中西金属工業ですが、企業が行政と協力していくためには、どんなことが必要なのでしょうか。
【中西】大阪府や北区以外では、大阪商工会議所経由でも面白い取組に参画しています。「コモングラウンドリビングラボ」(※7)といって、商工会議所や複数の企業と協働で大阪・関西万博を目指しているんです。デジタルツインを活用したAR・VRサービスやモビリティ等の開発・試験を進めていて、当社は社屋の一角を実験場として提供する形で参画させてもらっています。大阪商工会議所が実験場として使える場所を募集してたんですよ。当社の空いてる空間使ってもらっていいですよって言ったら、決まっちゃって(笑)。当社は非上場企業なので社内決裁が早い。だから行政もそうですけど、「まず中西金属工業さんに聞いてみよう」って言って来てくれるんです。この融通性のおかげというか。だから行政と楽しくやれるんじゃないかと、僕は思ってるんですよ。
【前田】それは分かりますわ。僕も、自分が思った瞬間にすぐ投げかけます。やれる、やれないは後からの問題で、その時の状況によって無理ならば仕方がない。でもまずは投げかけないと何も始まらない。とはいえ、こんなこと考えてるんだけど・・・って言ったときに、なかなか普通の企業は手が挙がらないので中西金属工業さんは珍しいですよ。
【中西】基本的に行政からの要請があったら、必ず前向きに受け止めて、もしできないんだったらその理由をちゃんと伝える。まず中西金属工業と一緒にやってみたいって思ってくれないと、なかなか行政との連携はできないと思ってるんですよ。
―つまり行政と企業が協力するために必要なのは・・・
【前田】垣根をなくすっていうこと。垣根っていうのは時代ごとに変わるんですよ。今の垣根の場所、高さ、構造が変わるんです、必ず。それはまだ具体的に見えてないけど、今まで垣根だと思ってたものをつぶしていくのが必要なんですよ。そうじゃないと行政はもたないし、社会ももたないんですよ。
【中西】どんな活動でも、いろんなことをやろうと思うと、ジャッジメントのスピード感が大事だと思うんですよ。基本的に、行政から要請があればすぐに当社の意向を返すようにしてるんですよ。要請をもらった時点で大体の結果は見えているんだから、不要なプロセスは踏まない。
―今の日本の企業には、まだまだそういう体質がありますね。
【中西】それが欧米の企業とかベンチャーに負けちゃう理由ですよね。だからそこのところが、行政とうまいことやる一つのポイントじゃないかと僕は思ってて。ほかの企業が会議に時間かけている間に、まず中西金属に聞いてみ。あの会社やったらもしかしたら。やっぱりそう思ってもらえる人間関係、信頼関係ができてくることが、僕は本当にサステナビリティというのでは一番重要なんじゃないかなと思いますけどね。
【前田】僕もたくさんの企業さんと毎日のように会うんですけどね。行政連携したいという話のときにお話しするのは、大阪市としますか、北区としますかって。このコースによって違うんですと。北区とだったら、僕がここで「うん」と言えば確定ですって言って(笑)。この会社も社長がその場その場で決断されるからすぐに話が前に進むじゃないですか。そのほうが早いでしょって。
―垣根をなくして信頼関係を構築した上で、スピード感を持ったやり取りができる関係こそが、未来の行政と企業のあるべき姿だということですね。もっとお話をお伺いしたいところですが、お時間が来てしまったようです。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。