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  • 創業から戦火、復興、成⻑の1980年まで
  • 米国へ工場進出、80年代の海外戦略
  • フィリピン、中国に生産拠点
  • 経営近代化へ社内制度改⾰
  • 2024年⼀創業100周年を⾒据えて
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回すのはキミだ。

中西金属工業株式会社(NKC)

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軸受、輸送機、特機の現況と今後

列島揺るがした東日本大震災、原発事故

  2011(平成23)年3月11日午後、宮城県沖を震源とするM9.0の巨大地震とそれによって引き起こされた大津波が、岩手、宮城、福島など東北地方の太平洋沿岸を襲った。同年12月30日現在の死者は1万5844人、行方不明者3451人で、被害総額は約17兆円といわれる。

  1995(平成7)年の阪神・淡路大震災(死者6434人)を上回る戦後最大の自然災害となった。被災者をさらに不安に陥れたのが東京電力の福島第一原子力発電所の事故で、周辺住民約8万5000人が避難生活を余儀なくされており、帰宅のめどはたっていない。水素爆発や炉心溶融(メルトダウン)により、広島に投下された原爆の168倍の放射性物質(セシウム137)が放出され、約8000平方キロメートルの地域が汚染された。

  幸いなことに、わが社の生産、販売活動への影響はほとんどなかった。軸受部門では一部の顧客で工場が被災し、4月~5月にやや販売低減があったものの、事業部全体では影響はなし。輸送機部門では、関東自動車工業、セントラル自動車、富士重工業、本田技研工業などの組立工場が被災、震災直後から復旧応援に出向いている。節電対策では自動車メーカーにならう形で、木金休業、土日出勤体制を敷いた工場、職場もあった。

  2万人近い犠牲者を出した東日本大震災の2011年3月11日の記憶は、人智を超えた自然の脅威として、長く語り継がれていくに違いない。原発事故による放射能汚染は、科学技術の限界と核の恐怖を見せつけ、原発に依存しないエネルギー社会への転換という潮流を生んだ。

 

軸受部門の売上高、拡大基調に

  軸受、輸送機、特機3部門別に、現況を記しておく。軸受事業部は現在、直径2ミリの極小タイプから3メートルの超大型まで数千種類のベアリング用リテーナーを生産、鉄道車両、乗用車からOA 機器など、あらゆる産業で重要な役割を担い、トップランナーとして軸受保持器業界をリードしている。さらに、長年培ってきたプレス加工、射出成形、精密金型技術を複合化して、リダクション・ギアなど自動車関連部品や工作機器関連製品など新規分野を開拓している。

  金属リテーナーは、名張、大阪、三重3工場で約9割、残りをNMC(米国)とNWC(中国・無錫)で生産している。ラジアルは三重工場、樹脂リテーナーは、名張、NMC、NPC(フィリピン)の3工場、ゴムシールは大半をNPCで生産している。2011(平成23)年にSKFから買収した「NKC MANUFACTURING SWEDENAB」(NSC)では、金属球面コロリテーナーを生産している。

  国内外にある7つの軸受工場の全従業員は2481人。NPCが最も多く776人、以下名張374人、大阪330人、三重259人、NWC192人、NSC130人、NMC120人。軸受部門の売上高は2008(平成20)年度263億円で上昇傾向にあったものの、2009(平成21)年度はリーマン・ショックのあおりを受けて220億円と落ち込んだ。もっとも、2010(平成22)年度はV字回復を果たし、中期5カ年計画で揭げた数値目標を視野にとらえている。

 

輸送機、トヨタ自動車の南アへ“空輸作戦”

  次は輸送機部門。革命的な駆動方式と注目を集めているのが、チェーンを全く使わないフリクションコンベア・システム。最先端の自動車生産ラインとして、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スズキなどが採用、シェア30%を誇っている。設計から据え付け、保全まで独自のシステムを開発、自動車メーカーの進出先の世界各地で展開。近年は、液晶ディスプレイパネルの製造工程に必要なクリーン搬送コンベアの開発にも取り組んでいる。

  この10年間の受注実績で画期的だったのは、2005(平成17)年にトヨタ自動車から南アフリカ共和国での生産ラインを2期に分けて請け負ったことだろう。かつて“難攻不落”といわれた同社から、メーンの組み立てラインを任されたのは初めて。これを契機にトヨタ高岡工場、トヨタ車体吉原工場、トヨタ・カナダ工場、トヨタ・ミシシッピ工場と受注が相次いだ。また最近では、2012(平成24)年に向け、トヨタ・ブラジル工場、トヨタ・中国工場の工事も受注している。

  中西輸送機の取締役を兼務する中西竜雄社長によると、トヨタ自動車の南ア・プロジェクトでは、コンベア資機材の空輸作戦まで行ったという。竜雄社長は「通常はコンテナ船で運ぶのですが、増産のピッチがあがってそれでは間に合わなくなった。コンベアシステムの資機材を収めたコンテナ200個を、名古屋空港から南アまで空輸しました。ロシアの大型貨物機アントノフを2度チャーターしました」とエピソードを披露した。

  コンベアの生産拠点である滋賀工場(従業員142人)の関係者は「塗装ラインの実績は積み重ねてきたが、サブラインといわれるのがつらく、悔しかった」と、トヨタ工場の“本丸攻略”をことのほか喜んでいる。

  こうした受注が輸送機部門の売り上げを押し上げ、2005 年度260 億円(売上計上基準の変更を加味すると326億円)と過去最大の売上高を記録した。わが社全体の売上高の4割強を占めるなど好調をキープ、中期5カ年計画で売り上げ目標300億円を掲げた。

南アフリカ共和国ダーバン市街 同国で稼働中の生産ライン画像挿入
南アフリカ共和国ダーバン市街 同国で稼働中の生産ライン

 

200億円大台復活、新興国向け活発

  ところが、2006(平成18)年度の売上高は233億円にとどまり、前年同期比マイナス10%と落ち込んだ。さらに追い討ちをかけたのが2008(平成20)年秋のリーマン・ショックで、自動車各社の設備投資抑制の影響をもろに受けた。2009(平成21)年度は100億9000万円とかろうじて100億円台は確保したものの、前年に比べ40%減少した。とりわけ、“ボリュームゾーン”といわれる新興国で厳しくなった。

  たとえばインド。バンガロールにあるトヨタ自動車の工場では、南半球の新興国向けの車種を生産しているが、トヨタのクルマが1台150万円なら、インドのタタは同じタイプを100万円で発売してくる。トヨタでは対抗策としてモデルチェンジして販売価格を下げる。それが生産設備の指し値にもはね返ってくるというわけだ。

  ただ、2011(平成23)年からは、受注環境が改善に向かっている。上期実績は売上高が100億円にのぼり、利益率も10%台を確保するなど堅調に推移。これらは自動車メーカーの増設工事が急ピッチで増えてきたことによるものである。

  さらに、2012(平成24)年から2013(平成25)年にかけて、自動車メーカー各社から新工場建設に伴う生産ラインの見積もり請求が相次いでいる。インドネシアとブラジルではトヨタ自動車と本田技研工業から、インドでスズキ、ロシアでトヨタ自動車、スズキ、フォード社といった具合だ。

  リーマン・ショック前には輸送機で260億円の売り上げを記録したが、2011年度は200億円の大台に戻せる見込み。竜雄社長は「受注価格はまだ水準以下だが、仕事量からいえば260億円分ぐらいはある」と話している。

  こうした海外展開で“中抜き”となる滋賀工場をどうするかが大きな経営課題だ。海外の現場に応援部隊として派遣するのはもちろん、それ以外に国内で新規ビジネスの開拓が急がれる。10人程度でプロジェクトチームを編成、守備範囲の搬送・物流の分野で、ユーザーのニーズを先取りするような新製品やシステムに照準を定めている。

  アイデアの1つが在庫管理の自動化システム。スーパーや一般のお店が手軽に操作できる、安価な機器とソフトの開発に力を入れている。コンベアシステムで培ったノウハウを生かした新製品で、小売という新しいマーケットの開拓でもある。もう1 つが太陽光を利用したスマートグリッド。すでにバス停などに利用され、日本では当たり前の商品だが、これにひとひねり加え、新興国への売り込みを考えている。

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滋賀工場の溶接作業

 

“新しい特機事業部”へ新市場開拓

  3つ目の柱である特機部門。引き戸用戸車を中心に、滑り出し窓用ステー、開き窓用金具(オペレーター)、特殊窓用金具、樹脂ローラーなど住環境を支える製品を世に送り出している。なかでも戸車のシェアは業界トップで、生産量は月間約1000万個。その約7割を大阪・寝屋川の中西化工(従業員148人)が、残り2割弱をフィリピンのNPC、1割強をNDC(中国・大連、従業員81人)がそれぞれ生産している。

  主力のサッシ用戸車の売り上げに直結する住宅着工は、2009(平成21)年78万戸に急落、45年ぶりに100万戸を割り込んだ。2010(平成22)年は81万戸とやや持ち直したものの、東日本大震災の影響や雇用情勢、所得環境の厳しさから、当分の間100万戸回復は難しい見通しである。

  2007(平成19)年12月に森山悦郎取締役が特機事業部長に就任、新市場開拓と体質改善に取り組んだ。工場での余剰人員を営業に回したほか、物流費の見直しに着手。さらにトステム(現・LIXIL)、YKK以外の新規ユーザーとして建材、リフォーム市場で急成長している4社(大建工業、ウッドワン、永大産業、上海中尾)と新たに取引を開始した。利益率も順調に拡大しており “新しい特機事業部”へ変身中である。

  住宅業界では今後、少子化などで市場の拡大が見込めないことから、住宅以外の事業や海外進出を加速させている。とりわけ、住宅・マンションブームの中国市場にターゲットを絞るハウスメーカーもあり、わが社としても大連に特機の生産拠点を構えている。中西化工の鈴木偉士工場長は「住まいについてはライフスタイル、カルチャーの違いがある。日本流が強すぎると、受け入れられない恐れがある」と話している。